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【前編】佐藤秀峰先生に聞く漫画の描き方「デジタル作画で僕が気をつけていること」

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『海猿』『ブラックジャックによろしく』などのヒット作で知られる漫画家・佐藤秀峰先生。その佐藤先生が今回はアナログ作画とデジタル作画両方の経験をふまえて自分自身で気をつけている作画上の注意点を紹介いただきました! 前編は、デジタルとアナログ、それぞれの特性をふまえた作画方法の違いについて解説しています。

 

 

デジタルは便利です。

 

デジタルで漫画を描くようになって「できること」がたくさん増えました。

 

例えば、一度描いた線が気に入らなければ何度でも修正できますし、「人体のバランスがおかしいな」と思ったら、体の各部分を選択ツールで囲い拡大縮小するなどして調整できます。便利になったことを挙げればキリがありませんが、人類の歴史を省みると、テクノロジーの進化とともに失ったものも多い訳です。

 

果たして、漫画の絵の場合はどうなのでしょうか?ちょっと検証してみようかと思います。

 

冒頭のイラストはClip Studioという作画ソフトで描いたものですが、線画の時点ではこんな絵でした。

 

 

線画の状態だと、背景の一部が描かれていない中途半端な状態の絵で、どういう状況なのかよくわかりませんね。

 

しかし、グレーで色付けをしていくとこの原画の意図が分かります。

 

 

まずは手前の人物にグレーで色をつけて…

 

 

背景にもグレーを塗り、光の当たる部分を白くします。
ちょっと灯りの形が見えてきましたね。

 

 

最後に光が当たっている部分以外の背景にグラデーションを重ねて出来上がり。街灯の明かりに照らし出された人物を描いた夜景のつもりです。

 

実はこの描き方は、アナログ原稿の描き方を踏襲しています。紙とインクがメインとなるアナログ原稿では、通常、原稿用紙に鉛筆で下描きをして、その線をインクでなぞり、消しゴム掛けした後、最後にスクリーントーンと呼ばれるドットの印刷されたシールを貼り込みグレー部分を表現して完成します。

 

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拡大するとこんな感じ。

 

漫画の場合、印刷経費の問題からインクを黒一色しか使えないので、グレーを表現したい部分は、遠目にはグレーに見えるドットの集合体であるスクリーントーンを貼り込み、カッターで削るなどして、微妙な濃淡を表現します。

 

基本的に白い紙に黒い色を加算していく発想で製作されており、白を塗り重ねていく発想はありませんでした。黒い部分は後からどんどん描き足せますが、イラストのように街灯の光の当たって白く見える部分などは、最初から手を触れてはいけません。描き始める前に十分に完成形をイメージして、白い部分は白く残し、黒い部分にだけ手を加えていくことが必要になります。

 

つまり、アナログしか漫画を描く方法がなかった時代には、作画計画をしっかりと頭の中に持ち、どれだけそれに近づけることができるかが勝負でした。

 

が、デジタルになるとこの基本思想は一変します。

 

まずは後のことはあまり深く考えずに線画を描いてしまえば、その後はなんとかなるのです。同じイラストをデジタル時代の描き方で製作してみます。

 

 

街灯の光で白くなる部分などは考慮せずに、とりあえず背景をしっかり描いてみました。

 

 

そこにレイヤーを重ね、街灯の光らしきものを加えます。

 

さらにレイヤーを重ね、白い色を重ねながら街灯の光を強調します。また、背景自体が奥に引っ込んで人物が浮き立つよう、不透明度を下げてみました。人物と比べて、背景のほうが色が薄くなったのがわかるでしょうか。

 

 

そこに筆ツールでグレーを塗り重ね、微妙な色合いを表現して完成。描き始める前にどこを白く残すか作画計画を立てなくとも、簡単にリアルな絵を描くことができました。

 

…といってしまうとデジタル最高〜!という話になりそうですが、実はそうでもありません。

 

すでに述べたように、漫画の場合、印刷経費の問題からインクを黒一色しか使えないので、グレーを表現したい部分は、遠目にはグレーに見えるドットの集合体であるスクリーントーンを貼り込まなければなりません。
デジタルでグレーを使用して微妙な濃淡を表現したイラストも、ドットに変換しなくてはいけない訳です。

 

で、変換したものを拡大するとこんな感じ。

 

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モニタ上で見るとあまり違和感がないかもしれませんが、この絵は紙に印刷すると、コントラストの低いぼんやりした印象の絵になります。

 

モニタで絵を見る場合はモニタ自体が発光体ですので、白が強く、黒が弱く見えますが、紙は逆に黒が強く、白が弱く見えます。PCやスマホのモニタの横に白い紙を置いて見比べてみると一目瞭然です。モニタのほうが紙よりも白は明るく、モニタ内の黒よりも紙の黒のほうが黒く見えるのではないでしょうか。

 

デジタルでもアナログでも、そうした特性を理解して作画をする必要がありますが、デジタルで作画していると、自分が実際に見ている画面が完成形に見えてしまい、ついつい紙に印刷された時のことを忘れがちです。

 

印刷した時に美しく見えるのは冒頭のイラスト。

 

 

モニタ上でのリアルさを追求するならこちらのイラスト。

 

 

出力をイメージして使い分ける必要があるのではないでしょうか。

 

僕らのようにアナログを通過してデジタルに移行した漫画家はこのあたりのことが身に染み付いているのですが、デジタルネイティヴの若い作家さんは、印刷された時の状態がイメージしきれず、せっかくのキレイな絵が残念な結果に印刷されていることも多く、「ああ!モニタ上でいくらキレイに見えていても、印刷じゃ通用しないんだよ!」と感じることも少なくないので、もったいないなぁ…と。

 

 

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■佐藤秀峰
大学在学中より漫画家を志し、福本伸行、高橋ツトムのアシスタントを経て1998年『週刊ヤングサンデー』(小学館)に掲載の『おめでとォ!』でデビュー。

『海猿』や『ブラックジャックによろしく』など、綿密な取材に基づいた人間ドラマを描く。

 

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