『銀魂』『BLEACH』に学ぶ、魅力あるキャラクターの生みだし方

個性的で、活き活きとしたマンガのキャラクター達。一体、プロのマンガ家はどうやって魅力的な登場人物を生み出しているのでしょうか?今回は、魅力的なキャラクターの作り方について考えてみましょう。

 

リアルな”複雑さ”が、キャラクターを引き立てる

死神と悪霊「虚(ホロウ)」の戦いを描いた作品『BLEACH』は、主人公達はもちろん、敵のキャラクターまでもが魅力的な作品です。
薄っぺらいステレオタイプなどではなく、複雑な内面を持った登場人物達に、読者は共感し魅了されています。そんなさまざまな内面を抱えるキャラクター作りについて、作者・久保帯人氏は次のように述べています。

 

“ただ明るいだけ、という人はいないと思うんです。明るい人には明るいなりの、そうなった理由があるはずですから”

(『マンガ脳の鍛えかた』より/集英社)

 

「誰にも負けないほど強い」と一口に言ってしまうのは簡単ですが、それに理由をつけるようにしているのですね。例えば「何かのために強くならないといけなかった」とか「血縁のため」とか、そういう背景まで設定するということです。これで一層リアルなキャラクターに近づけることができますね。

 

ここではさらに一歩踏み込んで、その強さについてキャラクターがどのように思っているのかを考えることをご提案したいと思います。例えば「疎ましく思っていて、普段は力を出さないようにしている」とか「誇りに思っていて、見せびらかしたいと思っている」というようなことまで想定するのです。そうすれば、キャラクターにぐっと深みが増すのではないでしょうか。

 

 

 

 

もう1つ、久保氏は必ずキャラクターのいいところを描くように気を付けているそうです。でも、いいところなんてそんなにたくさん思い付きませんよね。

 

人それぞれの”いいところ”を見つけるために、久保氏には普段から心がけていることがあるそうです。

 

“好きな知り合いをたくさん作ることかな。好きな人のことはじっくり見てみよう、と思うし、好きな人だったら悪いところも魅力のひとつだと思えるはず。だめな奴だから嫌いとかじゃなくて、だめなんだけどそこがかわいい、とかね”

(『マンガ脳の鍛えかた』より/集英社)

 

キャラクターを作るときには、良い部分だけを考えてしまいがちですが、実際の友人や知り合いを思い返せば、欠点や、ちょっとイライラするところ、許せないところだってありますよね。でも、決して嫌いではない。久保氏の敵キャラクターが魅力的なのは、「だめなんだけど、そこがかわいい」という愛がこもっているからかもしれません。

 

 

 

 

物語に出てこない設定が、キャラクターを作る

実際にキャラクターを作ろうとした場合、具体的に何から考えればいいでしょう?
簡単に思いつくのは、容姿や家庭環境などでしょうか。スタイルがよくて長い髪が印象的な美少女、しかも実家はお金持ち…などというのは、典型的なヒロインの設定ですね。
目新しさはありませんが、キャラクターをここまで決めたとして、これだけでストーリーを作れるでしょうか?

 

慣れている人ならできるかもしれませんが、ストーリー作りの初心者にとっては厳しいスタートラインです。次の一歩をどう進めればいいか、いきなり詰まってしまうでしょう。

 

ここでまた、プロの作家に学んでみましょう。
テンポの良い会話と、個性的すぎるキャラクターが魅力の『銀魂』の作者・空知英秋氏のコメントの中にヒントを見つけることができます。空知氏は、キャラクターを作りこむために、普段こんなことをしているそうです。

 

“マンガやアニメのキャラについても、アシスタントたちとよく話しますね。『あの2人はどうやってくっついたんだろう』とか、ストーリー上は描かれなかった部分を”

 

“キャラを作る時には、作品の中には出てこないような細かい部分を、なるべく多く考えておくことが大事だと思うので”

(『マンガ脳の鍛えかた』より/集英社)

 

 

確かに、読者からすればマンガの世界は、とある数日間しか描かれていません。しかし、作中のキャラクター達は生まれてから現在に至るまでの人生があるのです。その人生を想像し、しっかり設定することで、キャラクターの個性やパーソナリティが確立していくのでしょう。

 

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ではこのアイデアを参考に、キャラクターが生まれてから現在に至るまでの履歴を考えてみることにしましょう。幼稚園、小学校、中学校、高校、大学、社会人と、各ライフステージでの人物設定を想像してみるのです。
人物設定として挙げられる要素は、例えば性格、趣味、特技、身体能力、交友関係、恋人、思想信条などです。これらの履歴に基づき、その人物は行動することになります。

 

とはいえ、細かく設定を作ることだけが重要なのではありません。洗い出した設定を”これでもか!”と強調することで、特徴的なキャラクターとして読者に強い印象を与えるのです。

 

ただし、主人公の場合は注意が必要です。読者は基本的に主人公に共感したがるものなので、主人公の思想や行動があまりに突飛で不自然だと、読者の心は離れていってしまいます。この点にはよく注意しましょう。

 

次に、キャラクターを特徴づけるポイントとして、キャラクターの行動指針を決めるとよいでしょう。簡単に言えば、「キャラの願望」です。
「戦いたい」「好きな子に好きだと言いたい」「英雄になりたい」「甘いものが食べたい」「人の役にたちたい」などなど。人の欲求は尽きないものですが、そのキャラクターが一体何をしたいのかを最初に決めることで、どんなストーリーになっても行動がブレない人物になります。

 

 

キャラクターが勝手に動くこともある

魅力的なキャラクター作りには、作品に直接描かれないバックグラウンドをしっかり想像し、設定を作ることが大切だと分かりました。

 

「でも、やっぱり魅力に欠けるんだよなぁ……」
と、がっかりしている方は、ストーリー通りにキャラクターを動かそうとがんばり過ぎてはいないでしょうか?

 

事前に決めたストーリーを忠実に追うことに気を取られていると、予定通りの動きしかしない無難なキャラクターになってしまいます。個性的でのびのびとした人物が描けないのは、これが原因かもしれません。

 

その場合、ストーリーを1から10まで決めずに物語を進めてみるのも1つの方法です。設定をしっかりと決めたキャラクターは、作者がどうこうする前に勝手に動き出すこともあるのです。

 

 

久保氏が語った言葉に、次のようなものがあります。

 

“登場したてのキャラクターのことは、すぐにはわからない”

(『マンガ脳の鍛えかた』より/集英社)

 

作者だって新しいキャラクターとは初対面です。物語を通してキャラクターと接するうちに、キャラクターがどんなときに何をするのか学んでいくことになるのでしょう。

 

物語が進むにつれて、最初に想定していたストーリーの設定と実際に描き続けたキャラクターの性格や行動がズレることだってあります。そのとき、ストーリー通りに事を運ぼうとするとキャラクターが窮屈な思いをしてしまいます。

 

魅力が足りない、活き活きとしてくれないなら、思い切ってストーリーを忘れ、キャラクターの好きに動かしてしまうのも一手です。
もちろん、ストーリーを決めておくことが悪いわけではありません。特にミステリーのような作品であれば、キャラクターの配置、時間軸、トリック、結末まで、しっかりと決めておくことは重要なことです。

 

 

キャラクターを愛して、人物作りを楽しもう!

作品上には現れないバックグラウンドを作ることで、プロの作家は魅力的なキャラクターを生み出しています。一人ひとりの膨大なバックグラウンドを考えるには、かなりの時間や手間がかかります。これは、そのキャラクターが好きだからこそできることでしょう。

 

「魅力的なキャラを作る」よりも、「自分が好きな人を作る」と考えたほうが、より楽しく、魅力的なキャラクターを生み出せるかもしれませんね。

 

 

ノートを片手に、ぜひ読者をひきこむような魅力的なキャラクターを作ってみてくださいね。

 

 

(制作:ナイル株式会社)
(執筆:哀川 空)

(イラスト:ゆうこ)

 

 

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