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「青野くんに触りたいから死にたい」椎名うみ&担当編集インタビュー!

青野くんに触りたいから死にたいインタビュー

幽霊になった"彼氏"との恋を描き、1話目が公開されるや否や30万PVを突破した話題作『青野くんに触りたいから死にたい』。その創作秘話を作家・椎名うみとその担当編集に対談していただきました!想像以上の熱量と濃度の“創作論”が飛び出すインタビューをご覧ください!

 

原稿を描いて投稿した漫画家。その原稿を読んで担当希望した編集者。

こうして出会った2人はその後どのように作品を作り上げたのか――?

近年最大の話題作となった本作の創作秘話をセキララにご紹介!

 

「描き方が見つからない」スランプ時期や「青野くんに触りたいから死にたい」立ち上げ、創作術や「青野くん」の行く手、担当編集との付き合い方など熱く語っていただきました!

 

〈プロフィール〉

椎名うみ

「青野くんに触りたいから死にたい」作者。

「青野くんに触りたいから死にたい」1話はコチラから!

アフタヌーン編集・たしろ

椎名うみ担当編集。

たしろ編集の詳しいプロフィールはDAYS NEOに掲載!

 

 

 

椎名「初めての持ち込みで名刺をもらった意味がよくわからなかった」

 

——本日はよろしくお願いします。

 

椎名よろしくお願いします…いえーい!

 

たしろうん。いえーい!

 

 

——えーっと…まずは椎名さんがマンガを描き始めたキッカケから教えていただけますか?

 

椎名はい。ちっちゃい時からちょこちょこ落書きみたいなことはしていたけど、ちゃんと「漫画」を書き出したのは23歳からです。生まれた時から魂がオタクなのでオタクなことはずっとしたかったんですけど、あんまりそういうことをしてなくて…。

 

21歳くらいの時に、「あぁもう自由に生きよう。よしオタクになろう」と思って。アニメや漫画にたくさん触れ始めてから、漫画も描きだしたって感じです。

 

たしろなんで漫画にしたんですか?「オタク表現」をするなら、小説でもよかったんじゃ?

 

椎名小説が書けなかったのもあるし、漫画の方が読んでもらえるかなぁって。読む時の敷居が低そうだから。それで、独学で始めました。

 

たしろ今は線画までアナログで仕上げはデジタルだけど、最初はフルデジタルだったんだよね。

 

椎名すごい貧乏だったからアナログの道具が買えなくて(笑)。デジタルはソフトだけあれば書けるかなって…。

 

あと、尋常じゃなく下手だったので左右反転とか自由変形ができないと成り立たなかったんですよね。ただ、デジタルを使っていても地獄のようでした。

とにかく絵が書けないので。

 

たしろよくそれで漫画描き続けられましたよね。

 

椎名最初の頃は、pixivに2・3枚とかで上げていた程度で、漫画とは言えない感じでした。ネットなら物語として成立してない“ぶったぎり”であげてもいいじゃないですか。

 

「物語として成立させよう」と思って書いたのは、「太っちょバレリーナのみつこ」からです。

意志が弱いのでだらだら描いてたら、42ページに半年くらいかかっちゃいましたが。

 

↑最初の四季賞応募作「太っちょバレリーナのみつこ」。主人公や周りのキャラクター達の粒だつ“感情”が、連なるエピソードの中で描かれる。

 

 

――アフタヌーンの新人賞(四季賞)に投稿して佳作を受賞された作品ですね。

 

椎名はい、ただ実は「みつこ」は四季賞に応募する前に、別の雑誌に持ち込んだんです。

 

たしろあ、そうだそうだ。

 

椎名その編集部で名刺もらって「またネーム持ってきて来てね」って言われたんです。でもそれが初持ち込みだったので、名刺と「ネーム持ってきて」という言葉の意味がよくわからなくて。

「名刺もらった…けど次のネーム持ってこいって言われた…ってことは、この作品はだめだったってことなのかぁ…」と思って。「じゃあ、もったいないし、最後にもうひとつ投稿するか」って、アフヌーンの四季賞に原稿を送ったんです。

 

たしろそれ、おそらく「担当につきます」って意味だったと思うんですけど、その編集さんがウカツで助かった!(笑)次会う約束ぐらいしないとだめですね。

 

椎名あ、それくらいやってもらえるとわかりやすかったです。その時は単に「がんばれ」ってことかと思ったんですよ。

 

 

――「編集者が名刺を渡す=担当についた」ってことが一般的なんでしょうか?

 

たしろ編集者によるとは思いますが、私は「この人とやろう」と思わなければ基本的には名刺を渡さないタイプです。

 

 

 

担当「最初は椎名さんの才能の形がわからなかった」

 

――ちなみに、四季賞を選んだのはなぜですか?

 

椎名私の場合は、自分の描いたものはちょっと変な漫画なのかなぁと思っていたから。四季賞は変な漫画に間口が広いイメージがあったから、ここかなって思いました。

 

たしろ:まあ、そういうイメージはありますよね(笑)

 

 

――その投稿作を見てたしろさんが担当についたわけですね。担当について、最初にどのような会話をしたんですか?

 

たしろ「みつこ」が、ちゃんと完成させた初めての原稿と聞いたのと、まだコマ割りとか画面がアマチュアっぽい感じだったんで、まずは練習した方がいいと思って。

商業誌を最初から狙うのも段階が高すぎたので、まずはもう1本 四季賞に応募できる作品を、という話をしました。

 

椎名「画面が商業誌としてまだ成立してないので、いっぱい描いて練習しなきゃいけないね!」って言われて、私も「そうだなー!」って思ったんですよ。

 

たしろでも実は、私その時はまだ、自分が椎名さんに感じている面白さがなんなのかよくわかっていなかったんですよ。

だから、すごい力があることは間違いないのに「次はこういうものを書いたらどうですか」っていう具体的な提案ができなかった。

 

例えば「このキャラクターのこういう感じが好きだから、ぜひそういうものを書いてほしい」って言える作家さんもいるんですけど…椎名さんには言えなかった

だから、次の短編は「すきなものをとりあえず描いてください」って雑な投げ方した気がします。

 

椎名そういえばたしろさん、一番最初会った時に「好きな漫画何?」って色々聞いてきましたもんね。

 

たしろうん。その時は、「寄生獣」「ちはやふる」「エマ」…とか、どエンタメばっかり出てきたんですよね。

 

椎名どエンタメ、かつ大河系!

 

たしろ「みつこ」の時は、まだ椎名さんの才能の形がわからなかったけど、本人の志向としてはどエンタメだった。

だから、ピーキーな方向を志向する人じゃなさそうだということは感じていたんですが……後々わかったのが他人に伝わらないと虚無だと強く思っている人だってことだったんですよね。

 

 

 

椎名「漫画は伝えるツール。言語。他人に伝わらないと虚無。」

 

椎名え、だって、虚無でしょう? 漫画って伝えるツールじゃないですか。つまり言語ってことじゃないですか。

例えば私がですよ…ぱぴぷぺぽぽぺぺぱぺぺぱ〜!

 

――………!?

 

椎名……みたいな感じのことを突然言ったとするじゃないですか。

今、この場に虚無しか生まれなかったですよね? 全く意味がわからなかったから。だから漫画も伝わらないと虚無です!

 

たしろ:アハハハハ、めっちゃいい話だな、それすごいわかりやすいね!

 

椎名でしょー!?「ぱぴぷぺ〜」って言ってる私は「すごい気持ちい〜」って思ってるかもしれないけどさぁ(笑)。

 

たしろ聞いてる方は、「やべ、こいつ何だ?」って思うよね。

 

椎名自分が気持ちいいからってその虚無を発生させるのなら、相手からお金をいただくんじゃなくて、私が相手にお金を払わなきゃいけないんですよね。

でも漫画家で生活するんだったら、読者の方からお金をいただかなくてはいけない…そしたら、ちゃんと伝わるように描かないと!

 

たしろいいこと言うなー。ほんとそうだよね。

 

椎名そうですよ〜! ママじゃないんだから〜、読者の方は〜。伝わるように描くのは当たり前で、更にいいところもないと読んでもらえないじゃないですか!

初期のころはホントにもっと絵が下手だしネームもコマ割りもダメだった。だから、いいところを作らなきゃいけなかった!

 

たしろ冷静だなぁ(笑)。

 

椎名自分で作れそうないいところ、人よりもちょっとでも何かありそうなところを考えた結果、「感情を描くこと”だったらちょっとは見れるものが描けるだろう」と思ったんですよ。

それで「みつこ」はすごく微妙な感情をいっぱい書いてるんです。ホントに技量がないので、そこにすがりました。

 

たしろその狙いは、すごく当たってます。

最初の四季賞審査の時に絶賛していた3名のうち、私以外は男性だったんですが、2人とも「自分には絶対この作品で描かれている”感情”を拾いきれないから担当できない」って言ってた。

「この作家さんはすごいと思うけど、自分が担当についてもできることは何もない」って、それくらい感情の描き方がすごかった。

 

 

 

担当「作家さんと同じ虹が見えていないと担当できない」

 

たしろそれで、編集長から「たしろが担当すれば?」って言われたんですけど、実は私も椎名さんをうまく担当できるか、めっちゃ自信なかったです。

 

椎名え、なんでなんでー?

 

たしろだって、作家さんには虹が12色に見えてるのに、私が7色にしか見えてないとしたら、担当できない。

「椎名さんには12色見えてるのに私には7色だなぁ」ってなったらと思うと…

 

椎名でも。もし自分が12色見えてたとしても一般的には7色しか見えないとしたら、自分が12色見えてることは特殊なことですよね。

そしたら、漫画を描くんなら、7色にしか見えない人にも12色に見えるように描かなければ全く意味がないですよね。

 

たしろそう。でも、やっぱり担当として伴走する私が12色のきれいさをわかってないといけない。そうでないと「7色にしか見えてない読者」にどう伝えればいいか言えないじゃないですか。

だから本当は作家さんと同じくらい、その尊さと素敵さをわかってないとダメなんですよね。

わかっていなくてもできるとは思うけど、わかってた方がよりいい。

 

椎名いいですね……たしろさんはこういう風に、ちゃんとはっきり順序だてて説明してくれるので私にとってはありがたいです。

感覚で言われるよりも、理屈で言われた方がわかりやすいです。

 

 

 

担当「作家と編集は『物語に何を求めてるか』の感覚が合うことがすごく大事」

 

椎名あと、たしろさんにその頃言われたことで、覚えてることあるよー! それ、ずっと私の指針になってる!

 

たしろえぇぇ! 何て言った!?(笑)

 

椎名人と人が出会うのが物語です」って言われた。

 

たしろおぉぉ〜…どういうことだ!?(笑)

 

椎名次の短編「ボインちゃん」の最初のネームは、主人公の女の子が誰とも出会わない”内容だったんです。人はいっぱい出てくるんだけれども、主人公と対になるような重要な相手、そういう人と出会わなかった。

 

たしろあ〜、そういうことか。

 

椎名「誰かと誰かが出会わなきゃいけないんだ」って言われた時、に「あっ!」って凄いしっくり来たんですよ。それで、次のネームでは主人公と正反対のキャラクターを登場させたんです。

 

それからはずっと、物語を描くときはそれを思って描いています。あともうひとついいこと言ってました。「誰かと誰かが出会って、主人公が最初にいた位置からどれだけ遠くに行くか。それが感動の大きさです」…って。

 

↑「ボインちゃん」。人よりも少し乳房が大きいことがコンプレックスな主人公。しかし、あるクラスメイトとの交流で、少しだけ“変化”が生まれて…。

 

 

たしろ…って、私が言ったの!?(照)

 

椎名言ったの!(笑) そういうことを最初にたしろさんが言ったとき、「この編集さんとやりたい」って凄く思いました。

 

たしろ「人と人が出会うのが物語なんだ」っていう感覚が合致した、ってことが大事なんだよね。作家と編集は「物語に何を求めてるか」の感覚が合うことがすごく大事だと思います。

欲望の形は人によって違うので、そこが違う人と漫画を作るのはなかなか大変ですから。

 

あ〜〜〜…なんかもう、ほんと、今日はいい1日だなぁ(笑)。私、うれしいなぁ!

 

椎名たしろさん…私のこと好きですね、さては!

 

たしろ大好き〜!

 

 

——…仲良いですね…。

 

 

 

椎名「普通を描こうとしたら、面白さがどこにもなくなった」

 

――投稿作で出会い、1作の短編を仕上げ…。そのあとはスムーズだったんですか?

 

椎名全然!1000Pくらいボツになった時期がありました!!

 

たしろ「苦も無く連載まで来たね」とか「ネームとか、一発で全部通ってるんでしょ?」って言われることがあるんですが、そんなことないんですよね。

 

椎名確かに「みつこ」「ボインちゃん」の後の、「セーラー服を燃やして」と「崖際のワルツ」っていう2本の短編は、ネームもすんなり通ったんですよ。

でも「セーラー服」は「ボインちゃん」と設定が地続きの作品だったし…。

 

↑「セーラー服を燃やして」。「ボインちゃん」のキャラクターが、ある違和感に立ち向かう物語。

 

 

たしろ「崖際」は作る時、ヒットしている作品を構造分解して研究していたよね。

「導入が1P目からこのへんまで、このエピソードではキャラクターのこういうものを描いている、その後大きなストレスがあって転換…」みたいに。

「「崖際」も、方程式にちゃんとあてはめて描こうと思ってます」って言ってた。

 

↑「崖際のワルツ」。↑芝居に打ち込む美しく滑稽な少女たちの、“ワルツを踊るような”狂気と理性を描く。

 

 

椎名たまたま「崖際」は上手くいったけど、その後が難しかったんです。物語が瓦解して成立しなくなっちゃって…。

 

たしろ「崖際」の後にボツになった5作品くらいは、「やりたいことには賛同できるんだけど、でも…」っていう感じだったよね。たぶん色々無理があったのかな。

 

椎名その頃は、登場人物がクレイジーだから感情移入できませんって言われてたんです…。でも、“普通の人”っていないじゃないですか!? だからどうやって描けばいいかわからなくて。

 

それでも「とにかく私の思う“普通”を」と思って描いてみたら、ついに「面白さがどこにもない」って言われたの(笑)。

「今までは成立しなくても面白さがあったんですけど、これは面白さがどこにもない」って!(笑)

 

たしろあれはそうだね、キャラクターがいなかったね。そんな漫画も描けるんだって驚愕した(笑)。それまでは、破綻していてもちゃんと主張があるネームだったけど、最後に出てきたやつはそれもなくて。袋小路に入った時期だったね。

 

椎名でもあれも、描いたほうがよかったと思うんですよね。

 

たしろうん、それは思うよ。

 

椎名例えば私もそうなんですけど、絵が下手な人って、下手な理由のひとつに、”見る目がない”っていうのがあると思うんですよ。何が歪んでるのか、何がバランスおかしいのか自分ではわからない。

 

それを解消するためには、地道に“あら捜し”をするか、人から言われた意見に、わからなくても乗ってみることが必要。じゃないと、感覚は育たないのかなと思っていて。

だから「感性が普通の主人公を書いてください」って言われたら「感性が普通ってなんやねん」とは思うけど、とりあえず描いてみないと。

 

 

――それでわかったことは?

 

椎名キャラクターのいないネームを描いてしまった時は「求められてた『感性が普通の主人公』ってこういうことじゃなかったんだな」っていうことが分かりました。

 

問題のあるネームを描くと具体的なダメ出しをもらう。そのダメ出しを元に改善したネームを描くと、「いやそういうことではない、それでは改善になってない」と同じ箇所に別の角度からダメ出しをもらうんです

 

たしろ私、何度もしつこくダメ出しするからね(笑)。

 

椎名それを何度も重ねるとたしろさんとわたしのチューニングが合ってきて、完全に通じ合うと物語の作法を一つ習得できるんです

物語の作法とは、感性が普通のキャラクターをどのように描くか、ということもそうですが、他には、複数人の視点を混ぜて描かないとか、めくりを意識するとか、そういうことです。

 

たしろそうやって、一つずつ習得していったんだね…。

 

椎名ただ、人から言われた意見に「わからなくても乗ってみる」のはもちろんリスクもあります

人から言われた意見が本当に正しいのか、習得すべき価値があるのか、確信する前に乗っかってみるということですから。

 

でも、自分に見る目がないだろう、ということももちろんあったんですが、とにかく急いでたんですよ。早くうまくなりたかったんです、漫画が。だから意見に価値があるかどうかの精査を省きました。

 

それとたしろさんの面白いのチャンネルは、私の目指すところだろうな”ってことが肌感覚でわかっていたから。だからとりあえずはやってみるかと思って。

 

 

 

椎名「担当さんは、物語の骨組みを見抜くのに特化していた」

 

たしろ「まだうまくいってないけど、この人のやろうとしていることにはすごい興味あるし、見てみたいし、面白いな」っていうのは没を出していた間もずっと思ってました。

椎名さんも「コイツ没出しまくるな…でも自分の描こうとしていることを、どうやら面白がってはくれてるっぽいな」とは思ってくれていましたよね?

 

椎名うん。

 

たしろ担当になった瞬間にそういう信頼関係をすぐ構築できたらこんな楽なことはないんですけど、ネームのやりとりをしていかないとわかんないですよね。

 

没を出す時も「このキャラのこの感じはいい」とか、「このネームはだめだけど、描きたいことはすごくいいと思ってる」みたいなことは言ってたつもりですし、それを作家さんに伝えるのは大事かなと思います。

 

椎名言ってくれてたよ。それを言ってもらえると、何を残せばいいのかわかるよね。

 

たしろ:否定するのは簡単なんですけど、「ここは大事にしてくといいんじゃないかな」みたいなことを同時に言って伝えないと、「この人とやっていけるかな」って思っちゃいますよね。

 

 

――椎名先生は、たしろさんとやっていくことに不安はなかった?

 

椎名最初にネーム出したときから、「ほしい!」と思いました。「タシロサン、ワカッテル。タシロサン、ホシイ」って(笑)。

 

たしろえーーーっ?(笑)そんな、花いちもんめ的な感じだったの?(笑)

 

椎名ううん、カオナシ(笑)。…それはなぜかって言うと、たしろさんは、私が欲しい力を持ってたから。

たしろさんは、物語の骨組みを見抜くのに特化した人なんですよ。

 

たしろちょっと待って、どういうこと?(笑)

 

椎名え、わからない?骨組みだよ、骨格! 物語の理想的な起承転結の比率

物語がひとりの人間だとしたら、ここに頭がい骨があって、ここに胸骨があって、ここに骨盤があって…みたいなことが骨格。それにエピソードという肉がついていく。

で、最初の頃に私が物語を描けなかったのは、画力を除くと(笑)…「骨格がつかめない」というのが一番の理由だったんです。

 

でもたしろさんは、「この肉の中には骨がないですよ、なぜかというとコレコレこういうことなので。だからこの肉削いでください」ってことを的確に言ってくれた。だからついていこうと思えました。

 

たしろエピソード単体で見たときには面白いけど、物語の目的に対して有効じゃないなら外したほうがいい、ということですね。そういうことを作家さんが考えすぎると、気をとられすぎて物語自体が崩壊しちゃうこともあるからね。

 

椎名骨組みをつくるのが得意な作家さんもいるけど、私は、それが武器になるほどには特化してないので。骨格が見える編集さんと組めたら非常に気持ちが楽なんです。

 

たしろ椎名さんはえらい自覚的だよね、「自分の才能のありかた」みたいなことに。

 

椎名いや、わたしが特別自覚的なわけじゃなくて、ただわたしにないものがわかりやすかっただけだよ。物語描けなくてぐちゃぐちゃだったじゃん、「肉だけ、骨なし」で。そしたら「骨ない、骨ほしい」ってすぐわかるじゃん!

 

 

 

担当「漫画で人とつながりたいっていう欲求は強み」

 

――足りないものを自覚していて、それを担当さんが持っていたからこそ、没にもめげなかった?

 

たしろさっきもちらっと言いましたが、「ぱぴぷぺぽ語」ではなく、なんとか日本語を喋れるようになりたいって欲求がすごく強いですよね。それが大きいのかも。

 

椎名普段の生活がけっこう「ぱぴぷぺぽ」だからかな?(笑)

 

たしろ“虚無を生んでる”ってことね?(笑)

 

椎名そう。骨の話もさっき、たしろさんに伝わらなかったでしょ。普段「ぱぴぷぺぽ星」に住んでるから、人に上手く伝えたいっていう欲求は強いんです。

「サビシイ、コトバ、伝ワッテホシイ、言葉シャベリタイ、ニホンゴ、ムズカシイ」(笑)…みたいなね。

 

たしろ“漫画で人とつながりたい”っていう欲求の強さや動機は、編集者には与えられないので。それは強みですよね。

 

 

――その後、「青野くん」にはどんな風にたどり着いたんでしょうか?

 

椎名「崖際」の後の短編のネームがあんまりにも通らなくって…。

 

たしろ相談して、短編を考えるのはやめて、連載企画に取り組み始めました。

 

椎名でもでも、ネームの作り方がまだちゃんと見えていなかったから、キツくて…。

 

たしろその頃に、「青野くん」の原型になる漫画を、Twitterに投稿されたんですよね。幽霊の男の子と付き合ってる女の子の話。

 

 

↑Twitterで公開したという「青野くん」原型。一部のシーンやキャラクターの在りようは、連載版でもそのまま活かされている。

 

 

椎名「漫画で息抜きしたいな」と思ったんです。それで、Twitterで「毎日1ページ書きまーす!」って言って、それをまとめたものをPixivに上げてたの。

ただただ自分のためだけに、「ぱぴぷぺぽ語」を喋ろうと思って(笑)。

 

 

――また出ましたね、ぱぴぷぺぽ。

 

椎名編集さんにもらう意見って、実は漫画を作る上で全部繋がっていることなんですけど、それが理解できない頃は「たくさんのバラバラな意見」と認識しちゃうんです。

その全てを意識しながら、ぱぴぷぺぽ語で描かないようにと思い詰めていたら、漫画の描き方自体がわからなくなっちゃった。

だから「一度全部忘れよう、ぱぴぷぺぽ語の漫画を自分のためだけに描こう、ストレス発散だー!」と思って。

 

たしろ外国語を練習していてストレスたまったから、母国語で思うさま叫んだみたいなことだよね(笑)。

 

椎名NYで日本語を喋りまくった感じですね(笑)。読者の反応とかも、その時はまったく気にしなかった。

考えすぎてつらくなってたから、考えるのやめて「どうも、ぱぴぷぺぽ星人でーす★ 何言ってるかわかんなーい? オッケーオッケー☆」っていう気持ちでやりました(笑)。

 

でもそれが、結果的には“やっぱりロジックよりも、感覚を先行させる方がいいんだ”っていう気づきになったんです。

 

 

椎名「うまくいかなかったからこそ、シンプルなことが大事だと気付いた」

 

――”ロジックよりも感覚”と言うのは、つまり?

 

椎名例えば、外国の人が日本で「ありがとうございます」と言おうとしているとしますよね。日本語を喋るには技術がいるし、神経を使う。

だからって、「きっちり正確に発音しなきゃ」ってことにばかりこだわりすぎると、そもそもなんて言いたかったのか忘れてしまうことがある。

 

たしろうわー…!(笑)

 

椎名だから”ちゃんと日本語を喋らなきゃ”ってことは置いておいて、まずは素直な気持ちで「ぱぴぷぺぽ」って言ってみる。

 

言ってみてから「「ぱぴぷぺぽ」は、日本語だと「ありがとう」だったな」って変換する。

…それが、感覚が先行して、あとからロジックで描く”感じです。…なんで笑うの!?(笑)

 

たしろだって、それめっちゃわかりやすいんだもん!

「ありがとうっていう気持ちを伝えたいのに、うまく発音しようとしすぎると、気持ちが抜けちゃう」ってことね。天才か…。コレ新人さんに使おう…。

 

椎名ありがとう(笑)。…「伝える気持ちが大事なんだよ」って、子供向け番組みたいにシンプルなことですよね。

でも多分、すっごいたくさん倒れてうまくいかなかった後だったからこそ、シンプルなことが大事だったんだって実感できました。

 

たしろこの結論にすぐたどりついたわけじゃなくて、年数で言うと、3年ぐらいかかってます

それで、私もその、ちゃんとした物語になる前のTwitterの断片的な漫画を読んで、「これ連載にしましょうよ」って言ったんですよね。

 

椎名私も「これ良いのか、じゃあ考えてみよう」ってなって。

 

 

担当「今後もそこに立ち戻ることができるような指針ができた」

 

――それでは、「青野くん」の話は、2人の間で順調に固まっていったんですね。

 

たしろ最初に、新宿で話したよね。

 

椎名フレッシュネスバーガーで?

 

たしろそうそう!(笑)

 

椎名付き合った記念日みたいだね(笑)。

 

たしろ私にとっては、あれ結構記念日的ですよ!「崖際」が雑誌に載って、打ち上げ行こうぜって言ってご飯を食べた時だったよね。「青野くん」にとりかかる直前の頃。

 

椎名この話、軸がオカルトだったら付き合えないですって言われたんだよね(笑)。

 

たしろ恋愛の話だったら読みたいけど、オカルトが味付けじゃなくて主軸だとすると、椎名さんの一番のよさってそこじゃないと思っていたから。それをオブラートに包んで…

 

椎名いや〜オブラートに包まれてなかった!(笑)全開だった!(笑)ひぇ〜って思ったもん!(笑)だから、ここは腰を据えなければならぬと思って。

 

たしろそう、それで、なにがやりたいのか問い詰めて…(笑)。

 

椎名一言で言えたので、それを答えたんです。

 

 

――ちなみに、その一言って…?

 

椎名それを言うと、作品のラストに関わるのでここでは言えないんですけど。それを答えたら「それなら私…読みたいです」って、たしろさんがシリアスな空気で答えてくれて(笑)。

あの時私たち、土俵に立って四股踏んでたんですよね。対決って感じ。

 

たしろそうそう、それで私が土俵際の土壇場で投げられて、「負けたー!」って(笑)。

この物語でなにを描くか」っていうのをすごく明快に言ってくれたのでありがたかったですね。

この料理屋はフレンチなのか和食なのかイタリアンなのかが決まった

 

今後、「このレストランは、どの料理の何がウリなの?」って迷っても「コレだ」っていうものが椎名さんも私もわかってるから、そこに立ち戻ることができる。

そういう意味でもめちゃ楽です。

 

椎名いえ〜い!

 

たしろいえ〜い!

 

 

――その瞬間って、2人の間で”約束”が出来た、という感触なんですか?

 

たしろ指針が立った、ってことかなあ。

 

椎名コンパスでどこに進むか、方角を決めた瞬間です。

 

たしろ霧が晴れた感じです。「この電車、水戸に行くのか、逗子に行くのかわからないな」と思っていたら、「水戸に行きます」って教えてくれたから、「水戸に行く電車だったら乗りたーい!」って感じでした。

 

 

――目的地が先生とたしろさんの間で合致したんですね。

 

たしろ水戸に辿りつくまでの間に、「あっちに行くといい景色がありそうだぞ」って水戸と違う方向に行きかけたとしても、「でもこの電車水戸に行くんじゃん。乗客もそのつもりで乗ってるじゃん。そっちの駅すごい魅力的だけど、そっちに行きたいなら、甲府に行く電車の時に寄ろうよ」みたいな話が、めっちゃしやすくなった。

 

椎名どんなに面白くて美しい景色でも、水戸ゆき以外の線路にあったなら、それは捨てなきゃいけないんですよね。

 

たしろ取捨選択をする基準ができたんだよね。

例えば魅力的なサブキャラが登場しても、そのキャラに引っ張られすぎないで済む。錨が出来た、ということでもある。…こうやって話してるとほんとクリアになりますね!

 

椎名そだね! 話って、大事だねっ!

 

たしろ:コミュニケーションって大事だねえ〜。

 

椎名大事なんだねえっ! うふふ!

 

 

――…やっぱり、仲良しですね…。

 

 

椎名「最初の1ページですべてが決定されちゃうんです」

 

――初連載作「青野くんに触りたいから死にたい」のアイディアが生まれ、お2人の間で物語の”指針”が定まりましたが、その時点で、作品自体の内容はもう固まった感じなのでしょうか。

 

椎名とにかく最初に生まれたのは、彼氏が幽霊になっちゃった女の子が「君に触れないなら死ぬしかないじゃん」って言っている1シーンでした。

それがもう全部の始まりで、そのあとはドミノ倒しで作っていった感じです。物語の軸って、最初の1ページで決定されちゃうんですよ。

 

 

――キャラクターもその時点で、すでに出来上がっていた?

 

椎名はい。最初の1ページ、最初のキャラクターを描いた時点で、為す術なしなんです。

もういじれないんですよ。1コマ描けば決まっちゃうから、逆に掴んでない段階では1コマも描けないんです。

 

たしろ確かに、最初から異様に掴んでいる感じはあったね。

 

 

担当「編集長に土下座して、青野くんを始めさせてもらった」

 

――それでは、連載のネームはすんなり仕上がったんでしょうか。

 

たしろ1話と2話のネームは、2人の間で5回くらい直してから、2016年3月のアフタヌーン編集部の連載会議に出したんです。が…。

 

椎名だめだったんだよね。

 

たしろ編集長は椎名さんをすごく買っていて、「この人をとにかく世に出したい」っていう風に言ってくれていたんですけど、「メインキャラの片方が死んでいる話はフラストレーションがたまりすぎるから、可能なら、これ以外の企画を考えてほしい」って言われました。

 

椎名考えたんだよね、それで。

 

たしろ編集長が言うリスクは理解できました。でも、それでまたネーム制作で長期間かかってしまうのは嫌だったんです…とにかく早く連載経験を積ませてあげたいと思っていたので。

そこで「1か月だけ別の企画考えましょう。それがしっくりこなかったら、「青野くん」でいきましょう」って言って、期間限定で全然違う話を考えたんですよね。でも…まあ正直つらかった。

 

椎名私はつらくはなかったよ! 描いていて面白かったよ。ただ、つまんなかったのよ、「青野くん」より(笑)。だから、やっぱりこれは捨てましょうって言って。

 

たしろ「私たちも1か月頑張ったから」って言って、編集長には「すいませんでしたあ!!!」って土下座して(笑)。「じゃあいいよ、やんな」って言ってもらえた。

…でも最初に連載会議に出したネームは、今の1・2話とは違うんだよね。

 

椎名最初の1話は、好きな人と抱き合ったの初めてのエピソードまでで、2話目で青野くんが体に侵入する流れでした。

 

たしろだけど会議で「1話と2話くっつけたほうがいいんじゃね!?」「1話が『好きな人できた』で終わっちゃうと、この物語に何を期待して読んでいけばいいかがわかりにくい」って先輩編集者に言われて…。

 

椎名たしろさんも私も「それだー!」ってなりました(笑)。

 

↑「青野くんに触りたいから死にたい」。死んで幽霊になった彼氏と再会するシーンと、その彼氏が”違う一面”を見せるシーン。異なる2要素が、第1話に両方含まれることに。

 

たしろ確かにこの後、2人がイチャイチャするだけの漫画にも見えるし、何か別のことが展開していくようにも見えるし…予想の範囲が膨大すぎるんですよね。

それって、お店の看板になんて書いてあるかわかんないみたいなこと。

 

何屋だかわからないと、何が食べられるかわからない…そんなお店、誰も入らないですよね(笑)。期待ができないっていうのは、そういうことです。

でも1話で憑依まで描くと、怖さとかエロさが表出するので、看板の文字が少しはっきりするんです。そういった修正も含めて、1話が今の形で世に出るまでにトータル12稿かかりました。

でも、そこからまた苦労したよね。

 

 

椎名「作法がわかって、補助輪なしで自転車に乗れるようになった」

 

椎名4話までがすっごく直しが多かったの。ネームの書き方がやっぱしわかんなくて。4話も、最初のネームでは黒青野くんが優里に「キスして」って言って、優里が「きっ…キス!?」って驚くところで終わってた。

 

でもそれだと、「出来事が起こったところで終わってしまっていて、出来事を受けたリアクションが描けてない」ってたしろさんに言われたの。

 

↑美桜の家に弾かれたことをきっかけに、”黒青野”に変化。最初のネームでは、その後のキスによって起きた出来事や、優里の嘘が露見するシーンは次の話になっていた。

 

 

たしろ4話で言うと、2人の間ですれ違いが起きていることをお互いが知って、ショックを受けるっていう部分がリアクション。

優里が嘘をついていたことを青野くんが知るあたりだけど、ここまで描ききらないと、話としておさまりが悪いんですよね。

 

椎名現状のネームに直してあらためて、「第4話はここまで描いて初めて物語が成立するんだね」って二人で話したね。

「美桜ちゃんと出会う導入があり、黒青野になり、そのあと会話するまででひとつの話だ」って。

 

たしろ漫画の中の出来事って、キャラクターのリアクションを引き出すためにあると思うんですが、そこがワンセットになってない時がその時期まではしばしばあって。

「青野くん」は出来事自体がべらぼうに面白いので読めちゃうんですけど…でもリアクションもちゃんと1話の中に入れていきましょう、って話をしたね。

 

椎名なるほどーって思ったな~。

 

たしろそれからは、ほぼ毎回リアクションまで描ききってくれるようになったので、大きな直しはなくなりましたね。2巻からはすっごく楽になりました。

 

椎名楽になった〜。それまで暗中模索で描いていたけど、「あ、こういうこと!?」って物語の作法”がフッとわかって。やっと補助輪なしで自転車乗れるようになった(笑)。

 

 

――自転車…!?

 

椎名自転車の乗り方って、言葉で説明できないじゃないですか。

感覚で掴むしかないから、それまではこけまくって、後ろに支えがないと進まなかったけど、ある日突然「あ、漕げ…るー!!」…そんな感じです。

 

たしろそれも、連載を始めなかったらわからなかった。なので…編集長にマジ感謝だね。

 

椎名マジ卍だね!

 

 

担当「椎名さんは伝えるための苦労を厭わないし、努力に弛みがない」

 

たしろなので、2巻以降は小さいコマの相談くらいになりました。

 

例えば6話では「顔のアップが多いから、状況を説明するような、ロングで背景入りのコマを入れよう」とか。

 

↑藤本が優里を呼び出して、廊下で話すシーン。廊下のロングショットがあるので、3人の位置関係がわかりやすい。

 

 

椎名 「キャラクターたちがいる場所がわからないから」って、本当にその通りだよね。上手な作品の例とかも教えてくれて。

 

たしろ 編集者にとっても、作家さんの原稿にダメ出しするのって、すごく勇気が要ることなんです。

それでも作品が面白くならないとだめだから言うんですけど…椎名さんは、直しは面倒だなって感情ももちろんあるはずなのに、読者に「お金を払ってもらってる」っていう意識や「伝えたい」っていう願望が強いからか、「そのほうが読者が読みやすいんだったら、普通にそうするよ!」って応じてくれる人なんです。

だから、すごく信用して話が出来る。

 

椎名て、照れるー!(笑)

 

たしろ「他者とコミュニケーションをしたい」「伝わらないと虚無」っていう価値観だから、苦労や手間を厭わないし、そこに弛みがない。作家さんとして、とても得難い才能だなと思います。

 

椎名ありがとうー!(笑)多分ですけど、「伝わったらいいな、でも努力は面倒だな」っていう人は、これまで自然な状態でもわりと”伝わってきた”人たちなんだと思うんですよ。

私は、気を抜くと「お前、何やってんの!?(笑)」みたいな感じになることが凄く多かったから…。

 

たしろ努力しなきゃ、って感じだったんだ。

 

椎名うん。世界はシビアだったね!(笑)

 

 

椎名「編集さんと合わないと地獄だから、諦めずに探したほうがいい」

 

たしろ面白い漫画を作ろうと必死でネームを考えるのは、作家さんにとっては海中に潜り続けるように苦しいことなんです。編集もちょっと苦しいですが(笑)。

 

苦しんでる作家さんを「苦しいけどもう少しがんばろうよ〜!」って引きとめるのが編集の仕事なんですが、「もうこれ以上は無理です!」って言ってる人を無理やり引き留めたら、その人は息ができなくて死んじゃうじゃないですか(笑)。

私は、割と粘って潜ってしまう編集だと思うんですが、椎名さんは私以上に粘る体力と執念がある。だから、二人でじっくり潜っていられるんです。

 

椎名なんでそれができるかって言うと、二人ともが「面白い!」って思うものが、海底にあるって信じているから。

だとしたら、死にそうになっても海底にタッチしたいですよね。でなければ、潜った意味がないから。

 

たしろ…っていうメンタリティが椎名さんと私は同じなんだよね。

 

椎名海底に好きなものないです、ニモが見たいんです」っていう漫画家さんもいると思う。

でも、そういう人に「海底まで一緒に潜りましょうよ」って編集さんがついたら、「ニモが見れて満足してるのに、引き留めてくる」ってなる。

そうなると、「あの編集いちゃもんつけやがって」って地獄になっちゃう。

 

たしろ「ニモ見られたから陸に上がります」って言ってる人を、私が「ニモが目的じゃないでしょー!!」って掴む、みたいなことだ(笑)。

漫画家さんはニモが目的、わたしは海底が目的…目的が合致していないと、お互いにしんどくなっちゃいますよね…。

 

椎名いい・悪いではなく、面白さのチャンネルが編集者と漫画家で合うか合わないかの問題だと思うんです。

商業漫画として越えなきゃいけない最低ラインはあるけど、面白さの種類は本当に千差万別だから、「この編集者とはチャンネルが合わないかもしれないな」と感じたら、チャンネルが合う人を諦めずに探した方がいいと思います。

 

 

――合うか合わないかを知るためには、どうしたらよいでしょうか?

 

たしろ考えてること・感じていることをまずとにかく正直に出し合って、お互いの感覚や思いを握り合う感じでしょうか。

これって実際にネームを作ったりしてみないとなかなかわからないことなので、難しいんですが…。でも、一定期間付き合って「あ、なんか合わない」と思ったら、違う編集者とやってみることを考えてもいいと思います。

 

編集と合わないからといって、その人やその人の漫画に価値がない、ということでは絶対にないので…!

 

 

椎名「肉を削るように努力をしないと、ホムンクルスになっちゃう」

 

椎名:何にしても、これからも覚悟して、肉を削るように努力をしないと、伝わる漫画は絶対描けないと思います。

ほんのちょっと油断すると、私の漫画は異形のホムンクルスになっちゃう。

 

 

――ほ、ホムンクルス…????

 

椎名物語を作ることを人間に作ることに例えるとします。目指している人間像は「私がエモーションを感じる、たった一つの方角の終着点」なんですね。

そこを目指して連載をしているわけですが、まだ途中なので、今はこの「足」を作っている段階なんです。

 

 

椎名完結まで思い通りに描けたら、こういう“物語”という人体が完成するはずなんですが…

 

 

椎名でも、本当にちょっとでも油断したら、今こうやって足だけ作れていたとしても、シュッと歪んで、ホムンクルスができてしまう。

 

 

 

――「ホムンクルス」というのはつまり、物語がどんな状態になったことなんですか?

 

椎名物語で伝えるべきことがうまく伝えられていなかったり、いらないエピソードがごてごてついちゃったり、目先の面白さに引かれて物語を作ってしまっているような状態ですね。

それで、私、ずっと不安だったことが2つあって…。

 

 

――と言うと…。

 

椎名まずはホムンクルスにならずに人間を描き切れるか? もうひとつは、そもそも目指している完成形の人間自体に価値があるのか、この世に必要なものなのか?

この2点が不安だったんです。

 

たしろ私は2つ目の「完成形に価値があるのか?」ということを不安に思ったことはないんですよ。椎名さんが描こうとしているものに価値があるってめちゃくちゃ信じてました。

 

 

――そんなふうに信じられたのはなぜですか?

 

たしろこれまでの椎名さんとのやりとりを通して、「この人が描くものなら間違いないし、見たい」って思いがあったからです。それを、私は他人だからこそ無防備に信じていられるんです。

 

椎名そうなんです。たしろさんも両方心配しているかと思ってたんですが、たしろさんの心配は最初から「ホムンクルスになるかどうか」だけだったんですよね。

 

たしろ椎名さんがずっと「この物語に価値があるのか、必要とされるものなのか」っていう不安を抱いていたことは、しばらくは私もはっきりわかっていなかったんですよね。

でも、会話を重ねるうちにその不安に気づいたし、椎名さんは椎名さんで、私がホムンクルスの心配しかしてないってことがわかってきて。

 

椎名そうなんですよね~。でも、そんな私が、この作品に価値があるんじゃないかって肌感覚で信じられるようになったのは、たしろさんが「椎名さんの漫画を信じてるよ」っていうのを何度も何度も伝えてくれたのと、読者の方が熱を持って感想をくださったからですね。

 

そういう言葉が、心の器にたまっていって、ある日あふれたって感じでした。「この物語を書いていいんだ!」って。

だからほんとに、周りの人のおかげで「私の作ろうとしている”人間”には価値がある、このまま描き切ろう」って思えるようになったんです。

 

たしろ大丈夫、絶対に面白いよ。最後まで走り切りましょうね!!

 

椎名ありがとう〜(笑)。でも、この面白さは本当に面白いのか?人に届くのか?これでいいのか?…っていうことを、一瞬一瞬、思考停止せずに、これからも二人で考え抜いて作っていきたいです!

 

たしろうわああ〜、もう、ほんとにすごい人だなあ…! 椎名さんがこういう方だから、わたしも背筋が伸びるというか、がんばろうって思えます!

 

椎名て、照れる〜〜〜!!!(笑)。

 

 

――では、最後に読者さんに伝えたいことがあるとしたら…

 

椎名「いつも、読んでくださって、ありがとうございます!」

 

たしろ…に尽きる感じですね。いやー、自分たちのこと喋るのって難しかったね。でも有意義だったね!

 

椎名うん!

 

たしろ何か言い残したことありますか?

 

椎名特にナイヨー!

 

 

――ありがとうございました!

 

…濃厚なトークを繰り広げてくれた椎名うみ先生のアフタヌーン連載作「青野くんに触りたいから死にたい」は、現在3巻まで発売中!

2人の作る物語の行く末に、これからもぜひご注目ください。

 

 

このインタビュー記事は、『コミックDAYS-編集部ブログ-』から特別掲載しています。

 

講談社11誌150人超の編集者と出逢える場所『DAYS NEO(デイズネオ)』

 

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