解剖学を活用した顔の描き方【パーツの動き方に注目!】

解剖学を活用した顔の描き方【パーツの動き方に注目!】

人の顔と表情を描くための基礎講座です。人の頭部を単純な図形化して形を取るテクニックや、表情筋の働きなど、デフォルメしたキャラクターにも役に立つ技をドイツのコンセプトアーティストMagdalena Proszowskaさんが解説しています。

 

頭部の構成

 

人間の顔は、描くことがもっとも難しい複雑なモチーフです。

顔は他の3次元の物体と同じように凹凸(デコボコ)していますが、顔の役割りはそれだけではありません。

2次元の世界では、顔は物語を伝え、感情を呼び起こします。

 

さて、人間の頭部・顔を描く方法は、アーティストの数だけ存在します。

 

頭部および顔は2つの素材から構成されます。それは、硬くて形が変化しない頭蓋骨の層と、柔軟に形を変える筋肉と脂肪の層です。

頭蓋骨は、3つの幾何形体に単純化できます。細長い球形と、直方体と、半分に割った円柱です。

 

 

キャラクターイラストのスキルを磨きたければ、頭蓋骨の形を暗記してしまいましょう!

 

なぜなら、頭部を構成する頭蓋骨はどんな人にでも共通しています。

頭蓋骨を正しく描けるようになれば、どんな顔でももっともらしく描くことができるようになります。

 

また、頭蓋骨には一つだけ「あご」という可動部分があります。

あごは柔らかい関節(顎関節)で頭蓋骨とつながっていて、口を開け閉めすると前後左右に動きます。

下あごを前に動かしたり歯をすり合わせたりして動きを感じてみてください。

 

 

どんな動きにも対応できるよう、顎関節は特別な構造をしています。

口を開くときは、支点(回転の中心)は固定されず、あご全体が前方へ動きます。頬の側面に指を置いてみて、骨の動きを感じてみましょう。

 

口を開け閉めするとあごが前後に動くのがわかりますか? そのため、口を開けた人物をそれらしく描く場合はあごを前に出す必要があるのです。

 

 

顔の複数の層

 

頭蓋骨は顔の構成の基礎となる最重要パーツですが、キャラクターの実在感はこの骨に張り付いた柔らかい皮の形に現れます。

 

前に書いたように、頭蓋骨は筋肉と脂肪の層で覆われています。

この層の部分部分には薄い場所があり、そこから透かして頭蓋骨の形を見ることもできます。その他の層が分厚くなっている部分が、表情に合わせて形を大きく変化させます。

 

 

上図で緑色になっている部分は皮膚が薄い場所で、骨の動きをわかりやすく見て取ることができます。

ここにあるのは小さな筋肉と少量の脂肪なので、形の変化は最小限にとどまります。

 

一方で、頬や唇や目の周りの皮膚などは表情に合わせて形が大きく変わります。

この部分の皮膚の変化は緑色の部分には見られないものです。

 

頭蓋骨の次にもっとも重要な知識として、顔が球形であることを覚えておいてください。

顔は、空間を移動する平面ではありません。

顔の全パーツが丸い表面に沿って並べられることを頭に留めておいてください。

 

 

顔の表現

 

人が笑うと、唇の両端が上向きに動くだけでなくそれ以外の変化も生じます。

 

感情に合わせて筋肉が連鎖的に動き、顔全体に本物の笑みが生み出されます。

眉や目、小鼻や口の形――表現される感情に合わせてあらゆる部分が動きます。

 

友達の顔や鏡を使って自分の顔を観察し、感情に応じた顔の変化を見てみましょう。

あなたの画力はあっという間に上達し、描くキャラクターも自然な表情になっていくことでしょう!

 

1.無表情 2.喜び 3.悲しみ 4.ショック 5.怖れ 6.怒り 7.嫌悪

 

 

上図では、基本的な感情表現にともなって生じる筋肉の動きと皺を、それぞれ緑色と青色の矢印で示しました。

 

もしキャラクターを若く見せたければ、皺を黒い線で描かないようにしてください。

線画段階で顔に描く皺が増えるほど、そのキャラクターの印象はより年老いて、より醜いものになっていきます。

 

そうならないよう、目や眉毛や口の繊細な形に注意しつつ、可能な限りのさまざまな動きを試すようにしてください。

 

目と眉毛の動き

 

目は「心の窓」と呼ばれることがあります。

これは上手く言い当てた表現で、目というものは顔の中でもっとも表情豊かな部分です。

 

目だけが唯一それだけで、その人が笑っているか、怖がっているか、怒っているかを伝えることができます。

 

この目の周りにもたくさんの筋肉が通っています。

まぶたが広げられると虹彩全体が見え、まぶたが下がると目が細められ、しわが生じます。眉毛があるところには、眉の上端と下端を引っ張る筋肉の集まりがあります。

これがあることで、眉毛は上や下に曲がったり、波のような形を取ることができます。

 

その他にも、左右両方の眉毛を引き寄せる筋肉も鼻上にあります。

 

 

上の図を見てください。

これらは感情に応じた眼の表情のわずかな例です。J1、J2、J3は喜びの表現です。眉毛は自然な位置にあるか、または少しだけ引き上げられています。

 

笑みを描くときに重要なことは、目尻に向かって目が細くなり、頬肉によって押し上げられるということです。

また、同じ細目であっても本当の笑顔と作り物の笑顔とでは大きく違ってきます。

 

 

A1、A2、A3は怒り、嫌悪の表情です。

この感情表現においては、鼻の上部にある筋肉が強く働いています。

この筋肉は両眉毛を下方向へ引っ張り寄せて、眉毛と鼻筋のあいだに多くの皺を作り出します。

 

F1、F2、F3は驚きや恐怖を表現しています。

瞳の虹彩全体が露わになる唯一の感情表現です。

目を開けながら眉毛の形を変えることで、驚きから恐怖まで様々な感情表現ができます。

 

口の動き

 

唇の周りにはたくさんの筋肉が集まっており、これによって唇は色んな形をとることができます。

バラエティ豊かな表情に限らず、あらゆる声を作り出せるのもこの筋肉のおかげです。

 

下図に、喜び、恐怖、怒りの典型的な描写例をいくつか紹介します。

 

口を描くときは、歯と歯を離したら下あごも下に動かさなければいけないことに注意が必要です。

上唇が巻き上げられると、唇は笑顔をつくる時(図S2、S3)には繊細な曲線を、怒りや嫌悪の表情をつくる時(図G1、G2、G3)には大胆な曲線を描いて歯を見せます。

 

 

口角が小さな曲線で描かれる理由を疑問に思ったことはありますか?

 

口角には、たくさんの筋肉が繋がっている節があります。S1のNを見てください。

たくさんの筋肉が繋がった節は、球体となって口角に小さな曲線(影)をつくります。

 

 

口周りの筋肉は左右非対称に動くことができます。

みなさんも片方の口角だけを使って笑うことができるはずです。

鏡を見ながら、どれだけ表情を作ることができるかチャレンジしてみましょう!

 

鼻の動き

 

鼻は表情に乏しい部分だと思われがちですが、やり方が正しければ、ちょっとした描き分けで印象深い感情表現を作りだすこともできます。

 

N4では、鼻孔が口に合わせて広がっていることがわかりますか? 深呼吸すると、鼻孔は広く広がります。

N5のように、鼻の形を変えることでキャラクターに力強い印象を与えることもできます。

N2やN3のように鼻を曲げて描くと、怒りや嫌悪を表現することができます。

 

N1 – 無表情、N2 – 嫌悪、N3 – 怒り、N4 – 驚き、N5 – 緊張

 

実験を恐れず、異なる感情表現を混ぜ合わせてみたり、キャラクター独自の表情を作ってみてください。

もっとも重要なことは、実物から学ぶことです。どんなキャラクターアーティストにとっても、鏡は不可欠なツールです。

 

感情表現豊かなイラストを描く

 

ここまででお話した基本を理解しておけば、どんなキャラクターをも描くことができるはずです。

本講座の冒頭で、単純な幾何形体を使って頭部を組み立てたことを思い出してください。

 

この頭部のプロポーションを修正すれば、違和感のない顔を作ることができるます。

 

 

簡単な幾何形体を使って形をとることで、遠近感のある頭部の傾きも正しく描くことができます。

 

ここでは大きな目と丸い顔のキュートなキャラクターを描いてみます。

 

まず、真ん中の直方体のサイズは大きくし、半分に切った円柱は短くします。

次に、このプロポーションに合う頭蓋骨を描き、そしてその上に重なるように顔全体を描いていきます。

 

 

眉毛は上方向に動かし、頬は下瞼に重ねます。

左右に広げられた口が頬を持ち上げ、丸い形を作り出すように意識してください。

 

これで生き生きとした笑顔のできあがりです!

 

 

作者プロフィール

Magdalena Proszowskaさん(略称Magda Proski)は、独特の作風を持った、完成度が高い人物画やイラストで有名なアーティストです。

ユービーアイソフト・ドイツでシニア・コンセプトアーティストを務め、現在は『The Settlers』の制作に携わっています。

物語性と舞台設定を愛し、生き生きとしたキャラクターを中心とした表現豊かなイラスト作品を制作しています。

独学のデジタルアーティストとして成功を収め、今ではドイツのコローニャおよびデュッセルドルフにあるゲーム芸術大学で講演も行っています。

Portfolio: https://www.artstation.com/magdaproski

 

 

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