マンガの最前線で活躍するには?『Sho-Comi』編集長が語るマンガ家の資質【後編】

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画力、プロット、コマ割り、セリフの言い回し……漫画はさまざまな要素で構築されるだけに、どうしても自分に足りない部分が気になってしまいがち。しかし、完璧である必要はないと『Sho-Comi』の編集長、萩原綾乃さんは言う。漫画家に欠かせない資質について聞いた。

 

 

ひとつキラリと輝くものがあればOK。あとは編集者が何とかします!

 

――ずばり、漫画家になるための資質ってなんでしょうか。

 

萩原: やっぱり「描きあげる努力」ですね。努力って才能だと思うんですよ。毎月60枚の原稿を描かなければならないという過酷な世界に入るので、最後まで自分の作品を投げ出さない根性が必要です。いくら天才的に絵がうまかったり、話を作るのが上手だったりしても、描きあがらないと結局は掲載されないですからね。どんなに下手でも最後まで描きあげる根性のある人は見どころがありますね。

 

女性の写真

 

 

――漫画家の資質として、画力とかプロット作りなど、技術的な面が注目されがちですが、必ずしもそうというわけではないんですね。

 

萩原: ええ。むしろ、全部が全部100点じゃなくていいんです。何か一個光ればいいと思っています。絵がすごくうまい人でもいいし、話がすごくうまい人というのもいい。いいシーンだけを描けるっていう人でもいいですね。何か一個光るところがあると、すぐにデビューに近いところにいけるんです。

 

 

――足りない部分はどう補完していくんですか。

 

萩原: そこはもう、編集者の力で補完していきます。これもあれもできなきゃいけない、なんてことはないんです。「私はこれができるんだ」っていうことがひとつでもあれば、ぜひ作品を投稿してほしいと思いますね。一点光るところがあれば、その先は私たち編集者に任せて!という感じです。

 

編集スタッフの写真
▲頼もしいスタッフが作家を強力サポート

 

――そういう”光る部分”は、原稿のどんなところでわかるんでしょう?

 

萩原: 私は、最初にざっと全体を読んでしまいます。それで、あまりひっかからなかったらそのまま読み返しません。ただ、一旦読み通したときに、「絵がいい」とか「シーンがいい」とか何か記憶に残った部分があると、もう一回きちんと読んで批評を書く、といった感じですね。

 

 

――つまり完璧ではなくてもいいということなんですね。

 

萩原: そうそう。何かひっかかるものがあればいいんです。そうとはいえ、絵のうまい人は強いですよね。扉絵からみんなが上手だと思ってくれる。絵がいいだけではないけど、やっぱり絵がうまい子が得だとは思います。

 

 

編集者は作家の才能を信じて投資し続ける

 

 

――デビューするまでに時間がかかる場合もありますよね?

 

萩原: そうですね。作家さんにも絵やプロットなどそれぞれに得意不得意があります。そういう人をゆっくりゆっくり育てていこうとする編集者もいるんです。絵はすごく下手なんだけどお話が上手な人がいたら、2年後3年後とかにフッとその子がトップに躍り出てくるような感じに訓練を積んでいくんです。

 

萩原さんの写真
▲作家を育てるという萩原さん

 

 

――訓練って具体的にどういったことをするんですか。

 

萩原: 絵が下手な子には最初にデッサンから教えます。漫画の描き方が載っている本を参考にしたりしながら、絵の練習をするんですよ。描こうと思う子は逃げないので全然大丈夫です。下手なのに妙に惹かれる絵ってあるじゃないですか。味がある絵というか。

 

 

――画力だけでいえば、昔の方が総じてクオリティが高かった印象がありますよね。

 

萩原: 高かったですね。昨今は顔を描くのはうまくても体は苦手……みたいな人が多い。でも、そこは訓練でなんとでもなるんですよ。どちらかというと描きたいなと思ったら早く投稿することをおすすめします。下手でもいいから。

 

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 ▲下手でもいいから、投稿してほしいとのこと
――訓練している間に、賞にも出すんですか。

 

萩原: 出しますよ。自分がステップアップしていくのを経験したり、いまはこのレベルにいるんだな、っていうのを確かめることができますから。漫画は上達の過程が目に見えてわかりやすい。だから、編集者も一緒になって励ましながら頑張って育てます。

 

萩原さんの写真
▲編集者も一緒になってがんばります

 

 

――プロを養成するということですね。

 

萩原: いえ、学校に行かせます。学校や受験も経験させますね。

 

 

――逆に、その段階ではデビューする力がないってことなんですか?

 

萩原: う〜ん……というよりも、もっとうまくなるだろう、という感じです。この人はいずれデビューするだろうと信じて。育つと決めた人には中学生だろうが高校生だろうが時間をかけてずっと一緒にやっていく。あとは、月に一回、奨学生を選出していて、この人は有望だとなったら半年間毎月2万円ずつ支給する。これでバイトしないで漫画描きなさい、って。もう、投資ですね。早くにデビューしちゃうと、かえって本人がすごく悩んじゃったりするんですよ。如実に結果が数字に出てきてしまうので。アンケートの結果が悪いとか、何年も単行本が出ない、とかそういうことで落ち込むくらいであれば、「ここだ」ってときまで一緒に頑張る方がいい。

 

 

――何作も描き続けるんですか。

 

萩原: もちろんです。プロと同じです。編集者と作家がネームを相談して、原稿を仕上げて、賞に出す。賞には出すけどどこにも載らない。その分、次は頑張ろうねって言ってまた描き続ける。ひとつプロと違うのは、時間ですね。プロの人よりもゆっくり時間をかけて仕上げていきます。まずは、できるところまでしっかりやっていこう! という気持ちで臨んでます。

 

 

――最後に、漫画家を目指している方に一言いただけますか。

 

萩原: 「まず持ち込もう」ということ。そして、「自分が思っているよりも自分の才能はある」ということです。
そもそも漫画を描こうと思ってくれたこと自体が、私たちにとってとてもうれしいことなんです。別に完璧なものではなくていいので、まずは描いたものを持ってきてください、ということを伝えたいですね。下手でもいいんです。そのぎこちなさの中に、何か光るものがあるかもしれないので。

 

雑誌を持った萩原さん

▲『Sho-Comi』を持った萩原さんのステキな笑顔!本日はありがとうございました。

 

 

 

『Sho-Comi』編集長インタビュー【前編】はこちら

 

 

(制作:ナイル株式会社)
(執筆:園田 菜々)

 

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