小学館「ちゃお」井上拓生編集長インタビュー(4)

『ちゃお』編集長インタビュー(4)

2002年に少女誌売上トップに上り詰め、以降少女誌トップ、漫画雑誌全体でもトップ10に少女誌で唯一ランクインし続ける(※)少女誌の女王『ちゃお』の編集長・井上拓生さん(2017年現在は『sho-comi』編集長)のインタビュー第4回。※日本雑誌協会調べ

小学館『ちゃお』井上拓生編集長インタビュー③

 

 

子供たちのために、絶対にマンガを休載で落としたくないっていうのは、常々思っています。

 

-月例の新人賞の結果が巻末にありますが、この点数付けはどういう基準で行っているんですか?

 

なんとなく、デビューまでこれくらいの距離感の人は、「2スター」だなって感覚が編集部でできているんです。

話だったり、絵だったり、総合的な完成度がデビューに対して何合目なのかという点数です。

 

絵に関していえば、出だしや扉絵は丁寧に描かれているのに、後半になるにつれどんどん荒れていく作家もいて。

やっぱり扉絵100点で終わりのほうが20点の絵よりも、最初から最後まで70、80点をキープできた方が評価は高くなりますよね。

 

あとはデッサンだったり、全体のバランスだったり、絵の華やかさだったり、背景がきちんと描けているかとか、そういったところも見ています。

 

 

-作家さんの絵を、編集さんはどうアプローチして、伸ばしていっているのですか?

 

絵に関しては編集がタッチしづらい分野であることは間違いないです。

正確に言うと絵に関して言える編集と言えない編集がいます。

 

ただ、一般論として、細かくここのデッサンはこうした方がいいとか、ここの手の動きがどうなどと、いちいち指摘してはいられないし、それができるなら僕らがマンガ描いています。

絵に関してはやっぱり作家さんの自助努力によるところが大きいのかなって気がします

 

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-少女マンガの場合、絵を伸ばす点について、指摘することはあまりないのですね。

 

もちろん指摘はしますよ。

ただ、売り物として最低限の絵のレベルは必要ですが、デッサンがきちんとしていればマンガが面白いってわけじゃないし、デッサンがぐちゃぐちゃでもマンガとしては面白かったりするんですよね。絵の正確さって求め出したらキリがないと思います。

 

どんどん画面の情報量が増えてみんな絵が上手くなっているけれど、テレビの進化と似ていて、テレビがハイビジョンになって、映像がきれいになった分テレビが面白くなったわけじゃないし、逆に画質の荒い昔の映画の方が面白かったりしますよね。

全くそういうことで、絵に対して完璧を目指しすぎて、オーバークオリティーになり過ぎるのも問題じゃないかなと思うことがあります

もし、そこにエネルギーを使いすぎて連載が続かなかったりすることがあるんであれば、ちょっと違う気がしますね。

 

最近色々な雑誌で休載が増えてる気がします。しかも人気の連載ほど。後は、休載しないまでも下絵に近い絵が普通に掲載されてたり。

 

もちろん、それらのことには色んな事情があって、しょうがないことがたくさんあることも、この仕事してると理解はできるんですが、結局、休載するならコミックスでいいや。

絵が仕上がってるコミックスでいいやって雑誌から読者が離れていく大きな原因にもなっているのも事実だと思います。

 

僕も自分で買ってる雑誌で楽しみにしていた連載が載っていないと本当にガッガリします。

例えば、伊勢海老の名物料理が有名な温泉旅館で、それが食べたくて宿泊したのに、「旅館の都合で本日は、伊勢海老料理出せません」って言われたらクレームものですよね。
でもマンガ界ってそれが意外と通用しているところがあって。

書店で紐で結ばれた雑誌を買ったら、楽しみにしてた人気連載は休載だった。

でも雑誌の値段は同じ。それっておかしいですよね。読者には中身がわからないんですから。

だから、絶対に自分の雑誌で原稿を落としたくないっていうのは常々思っています。

 

そう思っていても残念ながら、落としてしまったことはありますが…特に子供はなけなしのお金で買った本に自分の読みたいマンガが載っていなかったときの衝撃は計り知れないですよね。

そのことだけは絶対に忘れないよう雑誌を作っています

 

これが正解というのはこういう仕事に関してはないんです

 

-恋愛経験のない若い作家さんはどうしたら恋愛ストーリーが描けますか?

 

例えば殺人事件にまきこまれないとミステリーが描けないのかっていうとそうじゃないですよね。

ケンカしないとアクションもの描けないのか、とか。

 

もちろん経験があるに越したことはないけれど、結局、人の経験なんてちっぽけなもので、作家なら何百パターンの恋愛ストーリーを考えなきゃいけないから、経験を凌駕する作家の想像力が必要になってくるんですよね

それはコンプレックスでも良くて、素敵な恋愛をしたことがないけど、だからこそこんな恋愛がしてみたいって話が出た方が作家としては健全なような気がします。

 

 

-今の話でいうと、最近の子供のことがわからないからボランティアでも行って子供と関わろうって行動するのは違うでしょうか。

 

もちろんちゃおでも企画に関しての意見を読者に聞くモニター会を開いたり、夏のイベントに参加してこんな子供たちが読んでいるんだって参考にしたりはしますけど、その子供たちがこんなマンガを読みたいとか言ってくれるわけではないから、それはやっぱり想像していくしかないんですよね。

 

 

-編集さんは、作家が子供の気持ちを知るために支援をされたりしますか?

 

編集はあまり関与しませんね。

 

それも作家の才能の一ひとつだと思っていて、自分が子供たちと触れ合うことで何かを得られると思うなら自分なりに考えて行動すればいいし、自分の子供の頃の経験だけで何とかなる人もいるので、やりたいことをやればいいと思います。

 

これが正解というのはこの仕事に関してはないんです

 

 

-最後に、編集長一推しの作品を教えてください。

 

石塚真一氏の「BLUE GIANT」です。
かっこ悪いってことが、本当にかっこいいことかも。って思わせるマンガです。
3人の若者がジャズにのめりこんでいくドラマに、読み手の魂が熱く震えます!

 

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-ありがとうございました!

 

 

インタビュー・ライティング:トキワ荘プロジェクト 菊池、福間、大橋

※本記事は、マンナビ「編集長の部屋」から特別掲載しています。

 

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