独占漫画家インタビュー:鈴ノ木ユウ「家族がいるから、僕は漫画を描く」

鈴ノ木ユウ、インタビュー

実写ドラマ化も果たし、現在も「週刊モーニング」(講談社)で連載中の「コウノドリ」。妊娠・出産の現実を描いた本作で、命の尊さを感じた人も多いのでは? 以前はロックミュージシャンだったという作者の鈴ノ木ユウさんが漫画家を目指したのは、息子さんのある一言がきっかけなんだそうです!

鈴ノ木ユウ

 

子どものための漫画人生

 

――「コウノドリ」(鈴ノ木ユウ/講談社)、いつも楽しみに読んでいます! おまけページの息子さんのイラスト、すごく素敵ですよね。

 

最初に息子の絵を載せた時は、保育園で描いたものでした。そしたらそれ以降も息子のイラストが恒例になって……。最近は本人も作家気取りで、新刊が出るたびに「もう来たか~」とか言いながら描いてくれてます。
最近の息子は野球にハマっています。僕が投げると女の子投げみたいになっちゃうので、キャッチボールはできないんですけど(笑)。

 

――鈴ノ木さん自身は、小さい頃からイラストを描いていたんですか?

 

母が教育ママで、漫画を買ってもらえなかったんです。でもどうしても読みたくて、友だちから「キン肉マン」(ゆでたまご/集英社)を借りて、丸々一冊模写してましたね。

 

鈴ノ木ユウ

 

その後は音楽に夢中になって、漫画とは離れていました。しっかりと漫画を描いたのは、高校生の時。友だちから「同人誌売れたら金になるから」とのせられて、「サザエさん」(長谷川町子/朝日新聞社)と「湘南爆走族」(吉田聡/少年画報社)のパロディを描きました。ギターを買うために貯めていた2万円を印刷代に回して増やそうとしたんですけど、まぁ売れなくて。そこからは漫画家になるなんて一切考えませんでした。

 

――そこから漫画家デビューするまでにどんな経緯が?

 

大学を卒業してミュージシャンをやっていた時、勝手に奥さんの家に住み着いていたんですよ。奥さんがバイトに行って帰ってくると、出た時と同じ姿勢で僕がギターを弾いているから、怒られたりしながら。そこで何かしようと思って、漫画を描いてる友だちを手伝いに行って、自分でもやってみようと「週刊モーニング」(講談社)に持ち込みました。それで賞を取ったんですけど、本格的に漫画を描いていくかと思っていた時に奥さんが妊娠したんです。とにかく働かなきゃいけないと思ったので、息子が3才になるまで漫画は描きませんでした。

 

鈴ノ木ユウ

 

当時はラーメン屋さんと牛丼屋さんでバイトを掛け持ちする生活をしてました。ある日、息子を保育園に迎えに行って自転車の前のかごに乗せて帰っていたら、息子が僕の方をふと振り返って、「お父さんの仕事って何?」って聞くんです。「お父さんバイトだよ」と言ったら、子どもが忘れないように小声で「バイト、バイト、バイト」とくり返してて、切なくなって……。奥さんに、もう一回漫画を描かせてほしいと相談したら、「そういうのもアリだよ」って言ってくれたので、それからまた描き始めました。

 

――息子さんのために描くのをやめて、また描き始めたんですね。

 

二度目に描き始めたのが36歳の時。「おれ達のメロディ」(鈴ノ木ユウ/講談社)を描いて、次に短期連載で始めた「コウノドリ」(鈴ノ木ユウ/講談社)が人気が出たので、そのまま連載を続けさせてもらえました。
好きで続けている仕事ですけど、締切に追われてる時はキツイですね。台所のオレンジの電気をつけて、泣くこともあります(笑)。

 

今まで続けてこれたのは、“ボツ”のおかげ

 

――青年誌で婦人科の漫画って異色ですよね。

 

漫画の経験が浅いから、なにも考えていませんでした。青年誌だからとか女性誌だからとかも、分からなかったんです。ただ、「描かなきゃ」と思いこんでたんですよ。
この作品は妊娠・出産と、すごくデリケートな話なので、女性が読んで傷つくことも描かなきゃいけないし、「本当は読みたくなかった」と感じる人がいるかもしれません。同じ経験をした女性が読んだ時に否定的にならないように、気をつけてますね。10人全員に納得させるものなんて僕には描けないけど、極力女性に対しては寄り添おうと意識してます。

 

鈴ノ木ユウ

 

――何か思い入れのあるエピソードはありますか?

 

「無脳症」のエピソードは、ボツをくらってしまって、4回も5回も描き直しました。どれがベストチョイスの話なのか、何パターンも描いたので、色んな立場で一つのものを考えることが自分の中にしみつきました。多分あれがなかったら、週刊連載で様々な夫婦を描くことはできなかったんじゃないかな。あの時のボツがあったからこそ、今までの連載に繋がっていると思いますね。

 

母体へのリスクを考え、無脳症の赤ちゃんを中絶することを提案する鴻鳥サクラ(こうのとり さくら)
コウノドリ(C)鈴ノ木ユウ/講談社

 

――周囲の人をモデルに物語を考える事もあるんですか?

 

「立ち会い出産」の回では、自分をモデルにしました。漫画家の夫が、妻の出産に立ち会って感動して、助産師さんの漫画を描くんです。僕も、息子の誕生を実際に目の前で見て、すごく感動したので。

 

作者の経験をモデルにした川崎(かわさき)
コウノドリ(C)鈴ノ木ユウ/講談社

 

基本的に、妊婦さんや出産した女性、夫婦の人たちからは話は聞かないようにしてます。話を聞いちゃうと、その人を描かなきゃいけないというプレッシャーに負けちゃうんです。
でも、「聴覚障害」の妊婦さんには取材しに行きました。耳が聞こえないというハンディキャップのある中で、どうやって出産に挑んだのか、自分の想像では分からない部分も多くて。

 

補聴器がないため、赤ちゃんの産声が聞こえない
コウノドリ(C)鈴ノ木ユウ/講談社

 

口約束アレルギーなんです

 

――お話は変わりますが、「コウノドリ」(鈴ノ木ユウ/講談社)、テレビドラマの続編がいよいよ始まりますね! ドラマ化が決まった時、どうでしたか?

 

もちろん、嬉しいですけど、あまり実感がないですね。以前バンドをやっていた時、渡すと言っていたギャラがなくなることも多かったので、口約束に抵抗があるんですよ。だから、実写化の話を聞いた時も、話が立ち消えになった時にガッカリしないように、ないものとして考えてました。

 

――自分の描いているキャラクターを俳優さんに演じてもらうのはどう感じますか?

 

正直、違和感もないけど、特に「やった!」という気持ちも起こらないですね。なにせ、自分の漫画が実写ドラマ化なんてありえないものとして考えているから(笑)。
でも、以前綾野剛さんとお話しさせていただいた時に、「この人が鴻鳥サクラ(こうのとり さくら)先生で良かったな」と思いました。すごくアツい人だし、真剣なんですよ。そして、すごくカッコイイ!
この間、ポスター撮影を見に行った時は、綾野剛さんと星野源さんが二人揃っていて、すごくさわやかで素敵でした。

 

鈴ノ木ユウ

 

これからも“家族”を描いていきたい

 

――漫画家さん同士の交流はありますか?

 

たまに、モーニングの作家で飯食ったりしますよ。なきぼくろ君やアビディ井上君、河部真道君とか。なきぼくろ君と河部くんは、元々僕の所で仕事の手伝いをしてくれてたんです。特になきぼくろ君は、漫画も描き始めたばっかりだったし、子どもができて連載が決まって、貧乏で……って、僕と環境が似ているんです。今でもすごく仲がいいですね。

 

――鈴ノ木さんが影響を受けた作家さんや作品はありますか?

 

一番影響受けたのは小山ゆうさん。高校生の時、小山ゆうさんの漫画がすごく好きで、実は今でも泣き顔のシーンは、当時小山ゆうさんの作品を読んだ時のイメージで描いてるんですよ。僕はあまり泣くこともないし、感激が薄い人間なんですけど、小山さんの漫画だけは泣いたんですよね。
がんばれ元気」(小山ゆう/小学館)や「お~い!竜馬」(武田鉄矢・小山ゆう/小学館)が好きで、よく読んでました。

 

人間味あふれる泣き顔
コウノドリ(C)鈴ノ木ユウ/講談社

 

――最後に、読者の皆さんへメッセージをお願いします!

 

例えば読んでくれた人が、「家族ができてよかった」「子ども可愛いなぁ」「奥さんありがたいなぁ」とか、そう思ってくれるだけで良いんです。興味を持った時に読んでもらって、読んだ後に少しでも、何か思うものがあれば嬉しいです。いつか「コウノドリ」(鈴ノ木ユウ/講談社)が最終回を迎えたとしても、これからもずっと「家族」を描いていきたいですね。

 

鈴ノ木ユウ

 

家族のために漫画家への道を一旦は捨て、また描き始めたという鈴ノ木さん。楽しそうに息子さんのお話を語る姿が印象的でした。今後も、“家族”を第一に、どんな活躍をされるのか楽しみです。実写ドラマもお楽しみに!

 

(プロフィール)
鈴ノ木ユウ
9月4日生まれ、山梨県出身。2007年「東京フォークマン/都会の月」で第52回ちばてつや賞に準入選するが、息子の誕生により一時漫画創作を休止。その後2010年に復帰し、「えびチャーハン」で第57回ちばてつや賞に入選。2012年から「週刊モーニング」(講談社)で「コウノドリ」を連載中。

 

◆鈴ノ木ユウ Official Web Site
http://suzunokiyou.net/

 

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◆本記事の提供元
めちゃコミック
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